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第41条の3助言義務

税理士は、税理士業務を行うに当たつて、委嘱者が不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れている事実、不正に国税若しくは地方税の還付を受けている事実又は国税若しくは地方税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部若しくは一部を隠ぺいし、若しくは仮装している事実があることを知つたときは、直ちに、その是正をするよう助言しなければならない。

税理士は、納税義務の適正な実現を図ることを使命とするものであるから、委嘱者の求めに応じて税理士業務を行う際に、委嘱者の納税義務が適正に実現されていないことを知った場合に、直ちにその是正を助言することは当然の責務であり、このような税理士の行為が税理士の税務に関する専門家としての社会的地位をより向上させることになると考えられる。
税理士が助言したにもかかわらず、委嘱者が助言に従わなかった場合は、助言義務違反にはならない。ただし、そのままその委嘱者について税理士業務を継続して行う場合には、不真正税務書類作成禁止違反等(法45①、同②)に該当することになるおそれがある。

昭和55年制度創設時の議論

この助言義務規定は、昭和55年法改正により創設された規定であるが、法36条(脱税相談等の禁止)、同37条(信用失墜行為の禁止)、同45条(脱税相談等をした場合の懲戒)により補えるという意見もあり、税理士業界で賛否両論があり、注目された改正項目であった。この義務の立法趣旨は、委嘱者が二重帳簿の作成や仮名取引等の不正行為を行っている事実を税理士が知ったときは、税理士をして「是正助言」をならしめることにより、適正な納税義務の実現を図ろうとするものであった。
この助言義務を税理士の責任という視点から考えてみると、委嘱者は、「税務に関する専門家として」「信頼」しうべき者としている税理士から、自己の真正にして適法な納税義務の過不足ない実現をめざしこれに到達するために必要な資料・情報の提供を受け、それに資する助言を得られうることも期待して税理士業務契約を締結している。委嘱者に対する税理士の助言義務は、明文の定めがあるか否かにかかわらず、当然に、税理士業務契約に包含されているというべきである。

【参考】

【国会議事録(抄)】昭和54年6月1日衆議院大蔵委員会(質問・答弁)
大島弘委員(日本社会党)
(中略)
本法の一番大きな問題であります41条の3の助言義務につきまして、税理士は、税理士業務を行うに当たって、委嘱者が不正に税を免れている事実、不正に還付を受けている事実、または課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽しもしくは仮装している事実があることを知ったときは、直ちにその是正をするよう助言しなければならない。41条の3で、罰則はありませんが、これに反した場合は懲戒されるということでございますけれども、果たしてこういう規定が立法化することになじむのかどうか。またこういう規定は、解釈いかんによっては非常に広範囲に該当する場合があって、税理士としましてはその懲戒を恐れて仕事ができないというようなことがあると思うのでございますけれども、そもそもこういう規定が法律になじむのかどうかというような問題、それからこの範囲を、事実を隠蔽しもしくは仮装しているということを厳密に言えば、隠蔽または仮装している納税者がずいぶん多い。またそれを知っている税理士も多いと私は思うわけです、現実の問題としまして。そういうのが一々懲戒の対象になるということになりますと一体どういうふうになるのかということで、その辺の考え方を説明していただきたいと思います。

福田幸弘政府委員(大蔵大臣官房審議官)
今回の41条の3の助言義務の御質問でありますが、これは第1条の趣旨から申しましたように当然の規定であります。したがって、当然の規定でありますから書かなくてもいいということもございますが、これはやはりその中で中心をなす脱税に対しては厳しい目を持つということが税理士には必要であると思います。これはまた社会一般からの目であるわけでありますから、現在のような社会情勢ではなおさらでございます。したがって、ここでその趣旨を明確にするということは、これは一つの社会的責任の明確化という意味で大事な規定であろうと思うのです。これが社会から支持されている今回の改正のポイントであろうと思うのです。これを書かないことよりも書いた方がベターであるというふうにお考え願いたいと思うのです。
もう一つは、この中が余りにも抽象的に免れもしくは免れようとしたということでは、この辺のまた客観的事実の認定に問題が生じますので、ここに書いてありますように、不正に「賦課若しくは徴収を免れている事実、」というのがございまして、あとは、免れようとしてというふうな表現も考えられたわけでありますが、ここはやはり具体的なことで書かないと税理士の保護にならないわけであります、反対に申しますと。したがって、「事実の全部若しくは一部を隠ぺいし、若しくは仮装」というふうな明確な書き方になっておるというふうにまずお考えを願いたいと思います。
この違反は、脱税相談の規定は適用されませんが、一般の法令違反の一般懲戒の対象にはなります。現在の規定でも信用失墜の禁止というのが37条にあります。「税理士は、税理士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。」これだってなかなか内容は決めがたいわけで、しかしこれは同じく一般の懲戒の対象になるわけであります。ここはその種のものに比べますとむしろ、はっきりした税理士の責任を書いておるわけでありまして、脱税相談の禁止というのが36条にありまして、これは45条でその場合の懲戒がはっきりしておりますが、さらに、故意に真正の事実に反して書類を作成したときとか、この種の規定とのバランス、すなわち、脱税相談というような積極的な脱税指導というものに至らないで、しかも明確に脱税の事実を知っておる、または脱税に至る事実を知っておるというときにアドバイスする、助言というよりも注意をするというのは税理士の当然の責務であろうと思うのです。これはアメリカの規則にも明確に書いてあるところでありまして、これは税理士をやっておられる以上は当然に守るべき義務であろうと思います。
ただ、これの義務違反を脱税相談と同じに扱うことには問題があると思います。これは作為的に指導しておるものと不作為的なものとの差、したがって、一般的な法令違反というものとして扱う。しかし、その場合の扱い方はおのずから常識のある判断が行われようと思います。まして新しい規定でありますので、その辺の運用がどうされるかは危惧のないように持っていく必要がございますし、この注意をすることによって脱税の事例が減っていく、90%は注意をされれば減ると思います。そこに社会的なやはり改正の意味があるというふうにお考え願いたいと思います。むしろ懲戒をすること自体に目的があるわけではありません。そういうふうにに考えるわけです。以上であります。

大島弘委員(日本社会党)
そうしますと納税者、隠蔽、仮装とか、私はいいこととは決して言いませんよ、これは悪いことです。悪いことですけれども、納税者としてこれを厳密に解釈すれば、極端なことを言えば、たとえ100円でも隠蔽、仮装だという場合もあり得るということですね。その場合に納税者は、税理士が知らなかったらいいんだといいますけれども、知ったか知らないかということをどう判定されるのですか。

福田幸弘政府委員(大蔵大臣官房審議官)
なかなかその辺は、本質的に訓示規定の性格を持っておりますので、さきの信用失墜に似た問題かと思うのですが、ここはわりにはっきり書いていますので、仮装、隠蔽の事実を知ったということで、100円ぐらいというような問題、そういう問題は知らない場合が相当多い。それから知っているか知らないかの問題は、おっしゃるとおりにあろうと思います。ですから、知らない場合の挙証はなかなかわれわれできないと思うのです。これは懲戒審査会というのができていますから、懲戒審査会が三者構成でやっておるわけでありますから、その辺の事実の認定の挙証はなかなか困難であるという事態までを懲戒対象にするというのは、常識的に考えられないと思うのです。また先ほどのように知らない場合が一つでございますね。知らない場合の挙証はなかなか困難でありますが、第二としまして、知っている場合に注意をするということは非常に大事だろうと思うのですね。注意をすることによって納税者がそこを正すということは、税理士の大事な仕事ですから、そこで正してもらえばその大部分の効果が上がるわけです。そういうことで、もう一つは、知っておりながらさらに相談を続けるという問題ですね。これは脱税相談につながっていくということでありまして、この規定自体が直ちに懲戒の方に具体的にどう発動するかは、ほかの37条的な一般の法令違反と同じく、懲戒審査会の常識のある判断によって一般の方の危惧のない運用が期待されるというふうに考えます。ないよりはやはりこれがあった方が、倫理規定としても重要でありますし、非常に悪質な場合にこれが発動されるというふうに考えます。
【国会議事録(抄)】昭和54年12月10日衆議院大蔵委員会(質問・答弁)
正森成二委員(日本共産党)
(中略)
今回の第41条の3に助言義務というものがあります。これは、「委嘱者が不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れている事実、不正に国税若しくは地方税の還付を受けている事実又は国税若しくは地方税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部若しくは一部を隠ぺいし、若しくは仮装している事実があることを知ったときは、直ちに、その是正をするよう助言しなければならない。」これはもちろん「税理士業務を行うに当たって」という制限がついております。そこで、私は当委員会で政府委員の答弁を聞いておりますと、あたかもこの規定が倫理規定であるかのような答弁をしておるかと思えば、他の委員の質問に対しては必ずしもそうでないと受け取れる点があるのですね。はっきりその点を答えてください。

福田幸弘政府委員(大蔵大臣官房審議官)
規定として倫理規定もしくはそれ以外の規定の線はなかなか引きづらい点がございますが、たとえば37条、御承知のとおりに「品位を害するような行為をしてはならない。」というのがございます。それと同じような趣旨で具体的な内容を定めたのが今回の41条の3と私は解しますが、これは「直ちに、その是正をするよう助言しなければならない。」内容は倫理を盛っておるという意味では倫理的規定である。しかし、これが正直に申しまして、正確に申しまして、法令違反の問題がございます。これ自体は、脱税相談もしくは故意に不真正の申告書を出すという意味の45条的な積極的な行為に際しての懲戒処分というものは適用しておりません。それは外してございます。したがって、懲戒処分としてはほかの法令一般の場合、すなわち46条が適用されるという意味では単なる倫理規定ということではない。倫理的規定ではあるが、しかしその趣旨からいけば、倫理的規定の趣旨を尊重して運用されるべきモラルの点に重点があるというふうに解しております。そうきちきち――刑法ではございませんので、業法でございますので、その辺の性格に応じて運用されるべきものである、こう考えます。

正森成二委員(日本共産党)
答弁は答弁として、この法律のでき方から厳密な解釈をしなければいかぬと思うのですね。そうしますと、この41条の3というのは、不正の事実を知った場合には、これは助言をしなければならないというように、英語で言えばマストという関係になっているわけですね。これをもし行わなかった場合には、46条で一般の懲戒というのに当然当たることになる。一般の懲戒の場合には、御承知のように、44条で戒告、1年以内の税理士業務の停止、税理士業務の禁止、この三つに、41条の3の助言義務を行わなければ該当して、処分される場合はあり得る。これは法文の規定から当然でしょう。

福田幸弘政府委員(大蔵大臣官房審議官)
法律の構成としてはおっしゃるとおりであります。あとはまた質問に答えます。

正森成二委員(日本共産党)
結構です。
したがって、これは単純な倫理規定ではない、税理士さんが職を剥奪される可能性のある規定であるということは非常にはっきりしているのです。これを倫理規定であると言って、あたかも大した規定でないかのようにとることは絶対に許されない。
それからまた、答弁の中で聞いておりますと、福田審議官は36条の脱税相談の禁止を挙げて、「税理士は、不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れ、又は不正に国税若しくは地方税の還付を受けることにつき、指示をし、相談に応じ、その他これらに類似する行為をしてはならない。」という規定がある、多くの場合に41条の3は結局この脱税の禁止に包括されてしまう場合が多いから、結果としては脱税相談の禁止というところで押さえられるだろう、こういう意味の答弁を社会党の同僚委員にしておられるのを私は拝聴いたしました。
しかし、これは全く違うのではないか。36条は脱税の相談の指示をするというのですからね。やれとディレクトするのですから。それから「相談に応じ」というのは、ほいほい、これはこうやった方が税金が少なくて済むぞということで、脱税の共同謀議をするということであります。こういう問題については従来から当然罰則がありました。刑事罰もあります。もちろん懲戒処分を受けます。ところが、今回の場合にはそれとは全く違って、税理士個人は積極的に何にもしないのです。指示もしない。相談にも乗って、ああそう、こうしようかというのにあずからない。ただ、委嘱者が不正の事実があった場合にそれを告げないという不作為ですね。それに基づいて46条による一般の懲戒で職を失うところまでに至るということになるわけでありますから、単純に36条に至る過程の中の問題だというような問題じゃなしに、それまでの過程を特別に構成要件として取り上げて一般懲戒で処分するということができるようになっているわけであります。これは大変な規定であります。
しかもなお大事なことは、不正の事実があって、それを直すように助言したかしなかったか、それは水かけ論であります。ところが、水かけ論にならないように41条で帳簿作成の義務を課しております。この帳簿作成の義務を見ると、いままでのは、税務代理という書類を作成して出したりというようなものについては、1件ごとに事件の要領及びそのてんまつ、報酬金額並びに事件の終了年月日等を書かなければいけない。もちろん委嘱者の氏名はあたりまえであります。しかし、税務書類の作成及び税務相談については、1件ごとに委嘱者の住所及び氏名または名称、委嘱を受けた年月日並びに報酬金額だけでいいということになっていたわけであります。そうすると、今回の規定の場合には、税務代理はもちろんのこと、税務書類の作成だけでなく税務相談についても、事件の内容及びそのてんまつを記載しなければならないとなっております。そうなると、従前は委嘱者の住所や氏名だけでよかったものについて、一挙に――これまで最も厳しかった税務代理でさえ事件の要領及びてんまつであります、それが今度は事件の内容及びてんまつということになれば、詳細に一々記載しなければならぬということになるのではありませんか。

福田幸弘政府委員(大蔵大臣官房審議官)
前半の部分からまず申し上げますと、脱税相談との差は、これは積極的行為とそうでない行為との差であり、それに応じて処分の差もあるわけです。具体的事例は、税務の接触を納税者と代理人がやっておる際に生じますけれども、普通これはここに書いていますことの沿革から申しますと、脱税し、もしくは脱税しようとするというのが最初にございましたが、構成要件を非常に明確に書いておる。主観的なことでなく客観的に相当の悪質な事例がわかるような構成要件になっております。これはちょっと最初に申し上げたいと思うのですが、そういう場合に、これは本当は罰則、懲役もしくは罰金が適当であるという意見も関係者にはございました。しかし、これは行き過ぎであります。というのは、先ほどのように積極的脱税相談とそうでないものとの差であろうと思います。しかし、そこで判断の要素が余り入ってはいけませんので、構成要件を明確にして、その相談をすると申しますか折衝の過程において、明らかに二重帳簿がある、もしくは仮装預金をしておるというものがたまたま目についたとき、こっちが探す必要はありません、そのときにアドバイスをする。それは直すべきであると言うのは第1条からくる当然のことだろうと思います。これを言っておるわけであります。しかし、これで相手が直せば――当然私は善良な納税者は直すと思います。90%以上、全部が直すというのがわれわれの期待でありますが、それを期待した規定であります。しかし直さない。直さないというのは情を知っているわけであります。そうしますと、その後引き続き業務をやりますと、情を知ってやっておりますから、そこで脱税相談に移行する場合が多いと思います。知っていますから、指導する話に移っていきます。またそうでないとしましても、不真正な申告書を書くことになりますので、後の45条規定に移るという意味で、途中の段階における予防的な規定であるというふうに解するのが常識的であろうと思います。
それから次の御指摘の帳簿の問題であります。これは、前回答申及び39年法に書いてある例文でございますが、新たにその辺の、税務書類の作成と特に税務相談の問題、これが御指摘の点であろうと思いますが、これは内容及びそのてんまつを常識的に非常に簡便な方法で、誰に、所得税の何年度の分の相談を受けたという程度のことを本人の備忘で書くのはあたりまえであろうと思います。あと、助言をしたかしないかの問題はまた別の問題でありまして、これは免責の立証の問題であろうかと思います。