1 章 総則(第1条〜第4条)

税理士の使命を明らかにするとともに、税理士の業務、税理士の資格、税理士の欠格条項が規定されている。この章は税理士法の根幹をなす章である。

第1条税理士の使命

税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。

税理士の使命(第1条)

税理士の使命
【日本国憲法(抜粋)】
(納税の義務)
第30条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。

(租税法律主義)
第84条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

―職責から使命へ―(昭和55年の改正)

税理士制度の淵源は、昭和17年に制定された「税務代理士法」を起源とし、その後、昭和22年の申告納税制度の導入、さらには昭和25年の「第2次シャウプ勧告」を経て、民主的な税務運営と納税義務の適正な実現を図る等の観点から、これを改組し昭和26年に「税理士法」が制定され、ここに民主的税制下における税理士制度が確立した。
税理士制度は、税務に関する専門家としての能力、識見を有する税理士が納税義務者を援助することを通じて、納税義務者が負う納税義務を適正に実現し、これによって、申告納税制度の円滑、適正な運営に資することを期待して設けられたものであり、税理士は、かかる要請に十分応えることにより、申告納税制度の発展に寄与し、その結果、税理士に対する社会一般の信頼と評価を高め、社会的地位を向上させることになる。
税理士は法律に規定された使命を持っている。隣接士業のうち法律において「使命」が規定されているのは、弁護士と公認会計士及び弁理士がある(図表「使命規定を有する隣接士業の比較」)。
憲法30条(納税の義務)を受けて、税理士の「使命」を規定しているのが法1条なのである。
昭和55年の改正において、職務上の責任である「職責」を「使命」とした改正の意義は、申告納税制度の中において、制定当初に比してますます社会公共性が増してきた税理士の役割を明確にした上で、税理士法全体の精神を表し、その解釈・運用にあたってよるべき基本原則を規定したところにあげられる。
税理士はこの「使命」を自らの行動規範として誠実に職務を遂行していくことが肝要であり、「使命」を全うすべく社会的責務が課せられていると自覚しなければならない。

昭和55年改正前 昭和55年改正部分
(税理士の職責)
第1条
税理士は、中正な立場において、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務を適正に実現し、納税に関する道義を高めるように努力しなければならない。

【参考】

使命規定を有する隣接士業の比較

  税理士法 弁護士法 公認会計士法 弁理士法
使 命 税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする
(法1)
弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする
弁護士法1①
公認会計士は、監査及び会計の専門家として、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする
公認会計士法1
弁理士は、知的財産に関する専門家として、知的財産権の適正な保護及び利用の促進その他の知的財産に係る制度の適正な運用に寄与し、もって経済及び産業の発展に資することを使命とする
弁理士法1
業 務 税理士は、他人の求めに応じ、租税に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする
一 税務代理
二 税務書類の作成
三 税務相談
(法2①)
(1)弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によって、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする
弁護士法3①
(2)弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる
弁護士法3②
公認会計士は、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明をすることを業とする
公認会計士法2①
弁理士は、他人の求めに応じ、特許、実用新案、意匠若しくは商標又は国際出願、意匠に係る国際登録出願若しくは商標に係る国際登録出願に関する特許庁における手続及び特許、実用新案、意匠又は商標に関する行政不服審査法の規定による審査請求又は裁定に関する経済産業大臣に対する手続についての代理並びにこれらの手続に係る事項に関する鑑定その他の事務を行うことを業とする
弁理士法4①
業務等

制 限
税理士又は税理士法人でない者は、税理士法に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならない
(法52)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない
ただし、弁護士法又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない
弁護士法72
公認会計士又は監査法人でない者は、法律に定のある場合を除くほか、他人の求めに応じ報酬を得て2条1項に規定する業務を営んではならない
公認会計士法47の2
弁理士又は特許業務法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、特許、実用新案、意匠若しくは商標若しくは国際出願、意匠に係る国際登録出願若しくは商標に係る国際登録出願に関する特許庁における手続若しくは特許、実用新案、意匠若しくは商標に関する行政不服審査法の規定による審査請求若しくは裁定に関する経済産業大臣に対する手続についての代理又はこれらの手続に係る事項に関する鑑定若しは 政令で定める書類若しくは電磁的記録の作成を業とすることができない
弁理士法75

「税務に関する専門家として」

税理士は、税務に関する専門家であり、職業専門家の常として、自己の信念に基づく公正な判断と良識とを保持すべきことは当然のことである。
税務に関する専門家とは、単に税法を解釈し適用するだけでなく、税法以上に広く、さらに実務への適用判断を加えながら、納税義務者に対する援助をすることができる専門家であると解されている。
税理士は税務の専門家であること、またその職業的公共性から、法2条1項に規定される税理士業務は、法52条において業務の制限が規定され、無償独占業務とされる。
無償独占業務とは、営利目的の有無ないし有償無償の別を問わず、税理士又は税理士法人以外の者が税理士業務を行うことができないことをいう(基通2-1)。

「独立した公正な立場において」

税理士は、納税義務者の委嘱を受けてその業務を行うに際しては、納税義務者あるいは税務当局のいずれにも偏しない独立した公正な立場を堅持すべきことが特に要求されている。
昭和55年の税理士法改正における国会での政府委員の答弁(参考「国会議事録(抄)昭和54年6月1日衆議院大蔵委員会(答弁)」、「国会議事録(抄)昭和54年6月5日衆議院大蔵委員会(答弁)」)及び平成13年の改正の政府参考人の答弁(参考「国会議事録(抄)平成13年5月23日衆議院財務金融委員会(答弁)」)は、「独立した公正な立場」とは、「専門家としての独立・公正な立場」であるとしている。このことは、税理士が職業専門家として、公正な立場に立ってその職務を遂行すべきであることを示したものである。つまり、税理士業務の公共性と税理士の使命達成のための立場、あり方、姿勢を明らかにしたものであり、「独立した公正な立場において」とは、税理士それ自身の職業倫理を表現したものと考えられる。
税理士法は、税理士業務が、社会的、公共的な性格を有するものであることを前提として、税理士業務を税理士のみに認められた独占業務(法52)とすることにより、税理士に対し、職業上の特権を与え、同時に、これに伴う義務を課することとしているものである。

【参考】

【国会議事録(抄)】昭和54年6月1日衆議院大蔵委員会(答弁)
高橋元政府委員(大蔵省主税局長)
現行の第1条は、「税理士は、中正な立場において、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務を適正に実現し、納税に関する道義を高めるように努力しなければならない。」ご承知のようにこういう規定が設けられております。ところで、この中の「中正な立場」という言葉でございますが、先ほども他の委員に御答弁を申し上げましたように、中正な立場、中立公正という言葉を詰めて中正というふうに言っておるわけでありますけれども、中正な立場がいかなる意味を持つかということは必ずしも明確でない。これをめぐっていろんな御議論があるというのが実情であったと思います。納税者の委嘱を受け、報酬を受けて業務を行っている税理士がなぜ中立なのかというのが、論議の一番の焦点であったかと思います。
今度御提案申し上げております新法では、この点を「税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、」という表現に改めることを案としておるわけでありますが、その点を明確にする、いわゆる中正ということをめぐる論議を明確にすることを考えてこういう文言にまとめたわけであります。改正によって内容が特に変わったというわけじゃございませんけれども、一つは税理士さんは、税務に関する専門家として、また独立した公正な立場において、納税義務者の信頼に応えて、納税義務の適正な実現を図ることを使命にするということを明らかにしておるわけであります。
(中略)
もう一点、旧法の「納税に関する道義を高めるように努力しなければならない。」という文言があったわけでございますが、今回の案ではそれを切っております。その趣旨は、納税道義の高揚ということは税理士さんが当然やられておるわけでございますけれども、納税道義の高揚ということは即、適正な納税義務の実現ということであります。したがって、適正な納税義務の実現という言葉の中に吸収されているということを考えまして、今度御提案申し上げているようなその部分を削るという改正案をまとめておるわけでございますが、この末尾の部分を削ることによって、旧法と新法の間で法文の趣旨が異なったものになったというふうには理解はいたしておらないわけでごさいます。
【国会議事録(抄)】昭和54年6月5日衆議院大蔵委員会(答弁)
福田幸弘政府委員(大蔵大臣官房審議官)
(中略)
第1条のそういう独立公正な立場での判断が加わる理由は、やはり適正な納税義務を実現するという特殊のお仕事をおやりになっておるということから来るわけで、それがまた独占権の与えられている理由でもあるわけでして、納税者の立場は、適正な納税義務の実現というところで、適法、合理的な課税が行われるということを専門家として援助するわけですから、過大な課税がここで行われないということを適正な納税義務の中に含めているわけでございます。それが納税者の信頼にこたえるということであるわけで、これは本当の意味の委嘱者との信頼関係であろうと思うのです。
そういう意味で、この規定自体は、従来の規定の趣旨をもっと明らかにして、職業会計人としての地位の向上、また、それによって来るいろいろな社会的な評価の今後の高まりを期待しておる、それがわれわれとしても税理士を尊敬し、その意見を尊重する、また、税理士の方も見識を持ってわれわれに意見を言ってもらうという、対等で緊張した関係というのが本来のあり方だろうと思うのです。
そこはそういうふうに御理解いただきたいことと、従来の認識をさらに高めておること、それが権利擁護という問題にまで行くかどうかは、私が繰り返しますように、司法と行政の違いということで、弁護士法とは違うことが大事であろうと思います。常に国が侵害をしておる、それに対して対抗するという認識はわれわれとしてはとれないところであります。
【国会議事録(抄)】国会議事録(抄)平成13年5月23日衆議院財務金融委員会(答弁)
尾原榮夫政府参考人(財務省主税局長)
(中略)
税理士法の第1条でございますが、税理士は独立した公正な立場にある、こういうふうにされております。これは、委嘱者でございます納税者の援助に当たりましては、納税義務者あるいは税務当局のいずれにも偏しない独立した公正な立場で、税務に関する専門家としての良識に基づき行動しなければならないことを法律上明らかにしてございます。
少しわかりにくいというお話がございましたが、納税者のサイドから、法を曲げても税金が安い方がいいというような依頼があっても、税理士の方の立場からすれば、まさに税法に定める納税義務の適正な実現に資するように、逆に、場合によってはたしなめるということも出てくるのだろうと思います。そういう意味で、独立した公正な立場、また当局との関係でも同じようなことになるのかなと思います。
このように、納税義務者あるいは税務当局のいずれにも偏しない独立した公正な立場で、税務に関する専門家としての良識に基づき行動しなければならないということを法律上明らかにしている。
したがいまして、この税理士制度でございますが、法令で定められた納税義務の適正な実現に資するということを使命として定めているわけでございまして、その観点からの職業上の特権でございますから、税理士の地位といいますのは、単なる私的な代理人ではなく、より高度な、公共的なものとして第一条で位置づけられているというふうに考えております。

「申告納税制度の理念にそつて」

わが国は、申告納税制度の採用により、国民が納税義務を履行するときは、租税法規に従って、自ら課税標準等を計算して申告及び納付をすることが原則となっている。しかし、日本の税体系は複雑多岐にわたり、かつ、難解であるが故に、納税者が税知識の不足等により、不利益を被ったり、間違った申告をしたりするような事態が予見される。
このようなことのないよう、納税義務者を援助するために税理士制度が設けられた。
税務の専門家としての能力、識見を有する者である「税理士」が納税者に代って税務代理等を行うことにより、納税義務者の信頼にこたえ、申告納税制度の円滑、適正な運営に資することが望まれる。
昭和55年の改正時の国会での答弁において、次のようにその提案理由を挙げている。
「この申告納税制度は、国民主権の政治原理に立って主権者たる納税義務者にみずから租税債務を確定する機能を認めたものです。…こうした申告納税制度下の税理士制度のあり方は、税理士のみならず、納税義務者を含めての共通の理解となっています。この基本的な理念が、税理士制度とこの税理士法の適用に貫かれていけば、主権者たる納税者の期待と信頼は強まるに違いありません。このことが納税義務の適正な実現に通じることは言うまでもありません。」

「納税義務者の信頼にこたえ」

税理士が「税務に関する専門家として、独立した公正な立場」で、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図るという使命を果たしていくことは、納税義務者との間に健全かつ強固な信頼関係を育成することになり、また、税理士に対する社会的評価をより高いものとする。

「租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現」

租税に関する法令に基づき「過大でもなく過少でもなく納税する」(参考「国会議事録(抄)昭和54年12月7日衆議院大蔵委員会(答弁)」)ことにより、憲法30条に規定する「納税の義務」が適正に履行されることとなる。
また、租税に関する法令に規定された納税義務が適正に実現することによって、その過程においても納税者の権利利益は擁護されることになる。

【国会議事録(抄)】昭和54年12月7日衆議院大蔵委員会(答弁)
福田幸弘政府委員(大蔵大臣官房審議官)
(中略)
司法の場合は権利を直ちに侵害されておるところから出発いたしますけれども、納税義務というものを適正に実現するというのが税務の執行における税理士の立場でありますので、権利というよりも、その税務の執行過程において――適正というのは、過大に課税してはいけない、過少に課税してはいけないということを意味しますので、その過程において納税者の立場が擁護されるということが適正な納税義務の実現ということで、おっしゃる趣旨もそういう形で含まれておると考えます。